四谷第六小学校

「いのちの学習」シンポジウム記録

パネリストの皆さん

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Emon Yuko Narita Mayumi Sugano Seiji Nagahori Hiromi
2006年2月18日(土)14:40~17:00 於:四谷第六小学校体育館
パネリスト:絵門ゆう子さん、成田真由美さん、本校校長菅野静二、
コーディネーター:永堀宏美さん
シンポジウムテーマ:「真の学力とは~今、学校にできること」

永堀 :2年前より四谷第六小のいのちの授業の研究に関わってきた司会の永堀宏美です。
本日は本校6年生の皆さんにも参加してもらって進行する。大人だけが議論するのではなく、当事者である子どもたちを常に視野に入れたいという願いを形にした。会場の皆様のご理解とご協力をいただければ幸いです。
児1 :それでは私たちの「いのちの授業」を支えてくれた皆さんを紹介します。
児2 :絵門ゆう子さんは、もとNHKのアナウンサー。その後フリーのキャスターや女優として、今では本を書いたり朗読のコンサートを開いたり、いろいろなところで大活躍されている。私が一番すごいな、と思うのは、絵門さんは「がん」という難しい病気を抱えながら、そういうお仕事をされていること。私たちの四谷第六小学校には、おととしの10月と去年の11月に来てくださり、ステキな絵本の朗読会を開いてくださった。
児1: 成田真由美さんは5年生の保健の教科書にも登場されている、パラリンピックの水泳選手。おととしのアテネ大会では7個のメダルを取った。成田さんは13歳の時に病気で両足が動かなくなった。その後、車いすでのバスケットボールやスキーなどいろいろなスポーツにチャレンジして、23歳のときに水泳を始め、大会で優勝したのに、なんと交通事故にあって今度は左手が動かなくなってしまった。それでも負けないで、リハビリをがんばり、とうとうパラリンピックの選手になった。
児2 :菅野静二校長先生は平成4年から14年間、いろいろな学校で校長先生をされた。私たち、四谷第六小学校の校長先生になったのは8年前。
児1 :全校朝会でいつも言われることは「学校はみんなの力でつくるところです」。そして「『いのちの学習』をやりましょう」と言ってこの学習が始まった。
永堀 :ステキなご紹介ありがとうございました。さて、これからパネラーの皆さんにそれぞれ10分程度お話しいただき、その後フロアを交えての質疑、議論へと展開したい。フロアにお集まりの皆さんにもご発言の時間を設けているのでぜひ積極的にご参加頂、ご一緒に「いのちの学習・教育」について考える場をつくり出したい。
菅野校長 :学力論争で揺れる学校現場。教育改革は平成9年に当時の文部省から出された「生きる力」と「ゆとり」が出発点だった。これまでは欧米諸国という目指すお手本があった。21世紀になって,これからはお手本のない社会に子どもたちを送り出すことになる。自分で考え,自分で課題を見つけ出す力を育てなければ。これまでの教科中心の学習だけでは足りない。学んだことを生かせる学習の仕方を身につけるために「総合的な学習の時間」が設けられたはず。ニートの問題,犯罪の低年齢化等は先の見えない新しい時代を迎えた中での子どもたちの叫びか。私たち学校は何をしなければならないか。このままでは「学力」は向上しないだろう。学ぶことの意味がわからないままでは。「勉強しよう」という気持ちが沸かない中・高生が過半数。(ベネッセ調査)「なぜ学ばなければならないかわからない」過半数。
絵門 :ご縁があって本校に。この場所に今日来られたことが幸せ。「いのち」を「死」の反対語としてとらえるのではないと知った。4年前の危機的状況に陥って得られたのは生きる事へのエネルギー。今また危機的状況になっています。抗ガン剤を止めた結果,肝臓が普通の3倍に。いのちの終わりを意識しつつ奇跡を信じている。今日ここに来られたのは6年生のみなさんからエネルギーを貰ったから。助けると言うことはその人を引っ張ると言うことだけじゃなくて頼るということも助けることになる。将来の心配も過去の後悔も無駄。今この瞬間を生きていて,皆さんの役に立てることが幸せ。今日1日を生きることで誰かを喜ばせることが出来れば,とみんなが考えていれば世界は平和に。×がなくて○をたくさんもらうことが正解でなく,どれだけたくさん考えたか,が学ぶということ。私も病気とつき合いながらいいと思う方法をいろいろチャレンジしてきた。正解はない。難しい病気と取り組みながらそういうことがわかってきた。これから中学生になって悩みが増えるでしょうが,正解はひとつではない。自分らしい味付けの付いた答えを。「いのち」は生きる事へのエネルギー。オンリーワンの答えを見つけながら生きていく。次のオリンピックを私も目指したい。
永堀 :命がけでこの場に臨んで下さった絵門さん、そのこころからのメッセージを会場の皆が感じていると思う。きちんと受け止めたい。
成田 :私は中途障害者。174センチの身長。体育が取り得の小学生でした。その私が脊髄の病気で、中学で足が不自由になった。あたりまえのように学校に行っていたのに行けなくなったのがつらかった。泣きながら教科書を破ったことも。1年遅れて高校に進んだが,つらくて友だちに会う気になれなかった。小児科では声を出さずに泣くことも覚えた。アイドル歌手の自殺で,同室の幼い子どもたちから「どうして生きるいのちがあるのに死んでしまったの?」と聞かれてハッとした。生きたくても生きることの出来ない子ども。自分は足が不自由でも生きることは出来る。それから前向きにいきることができるようになった。水泳が嫌いだった私が,水泳を始めたきっかけは,仙台での大会に誘われたこと。大会で優勝した矢先,追突事故に。今度は手が不自由になった。しかし事故があったからこそ泳ぎたいという気持ちが強くなり,リハビリしようと水泳教室の門を叩いた。車椅子は門前払いの水泳教室。7件目にやっと引き受けてくれた。バリアフリーは建物ではなくて人の心。
みんなに知ってもらいたいことは結果ではなく過程。三角形の頂点があるのは底辺があるから。みんなはいつもたくさんの人に支えられていることを忘れないで。目標をもって。
永堀 :いま成田さんが話された、挫折から立ち上がる力、想像を絶する苦労を笑顔で語る力、それは本校が「真の学力」として目指してきたものではないだろうか?
それではここで、乙武さんにもお話を伺えれば。
児1 :乙武さんは新宿区の「子どもの生き方サポーター」として、9月に私たちの学校に来て、4年生と6年生の「いのちの学習」に登場してくださった。
児2 :6年の「世界の中のわたしたち」の授業では、私たちが言った「平等」ということの意味について、乙武さんから「ホントに君たちは今のくらしを犠牲にしても平等になる勇気があるの?」と鋭くたずねられ、悩みが深くなってしまったことが忘れられない。
乙武 :「じゃあ,どうしたらいいの?」ということを投げかけたかった。例えばサッカーを一生懸命やっている子。ロナウジーニョは世界中の貧しい子どもたちにも夢を与えている。自分らしさを生かして,世界の人に夢を,何かを,与えられる。今日は、将来について6年生から僕が考えていた以上の素敵な決意表明を聞かせて貰った。
今日,絵門さんがここにいるのは物凄いこと。僕の父は7年間ガンを患って亡くなった。みんなもし自分が「もうすぐ死んじゃうかも知れない」と思ったら何をする?多分自分の好きなことをするだろう。絵門さんはどうして今日ここに来てくださったのか?みんなちゃんと受け止めたかな?すごいプレゼントを貰った。絵門さんは僕たちに何を伝えたかったのか,みんなで考えて。僕は今日ここに来られて嬉しい。みんなのこれからも楽しみ。
永堀 :乙武さんは本校の授業に来訪された際、上の目線から子どもに一方的に伝えるのではなく,常に子どもと同じ目線で伝えてくれた。経験ある大人が子どもに対して上から何かを投げ掛ける「教え育む」ではなく、小さな種を子どもの心に植え続ける「教育」がそこにあったと思う。
当事者である児童たちからこうした授業についての感想や意見も聞いてみたいと思う。今日は本校を代表して6年生の皆さんがフロアに参加している。
児A :わたしはユニセフのビデオや写真で世界の子どもたちの現状を知ってショックだった。この子たちのいのちはわたしのいのちと同じように大切にされているのか?12才の、同じ地球の仲間として「何かしたい」と思い、ボランティア活動をした。ほんの少しかも知れないけれど、役に立つことができたのでうれしい。今は、これを続けていくことや、他の学校の人たちとか大人の人たちに広げていくことが大切だと考えている。
児B :ぼくは、苦しい生活なのに、一生けんめい暮らしている子どもの笑顔の写真が忘れられない。この学習を通して、いろいろなことを感じたり考えたりした。自分たちの力がまだとても小さいということもわかったが、力はゼロではないと思っている。私たちの、まずしなければならないことは「勉強すること」だと、今、強く感じている。
***フロアより***
GTとして参加した方:感動しました。今自分は健康で有難く思っている。両親,周りの人,先生いろいろな人に感謝を感じている。悲惨な戦争も経験したが,この感謝の気持ちを生かして若い人たちにこの体験を言い伝えていきたい。
保護者:二人の子どもが現在四谷第六小に。菅野校長先生には子どもたちを幼稚園の頃から大事に育てていただいた。いのちの熱さを感じ取れるようになってほしい。実際に見ることの出来ないものにも心を寄せ,感じ取れるようになって貰いたい。最近,心を痛めたニュースはウサギを蹴り殺したという少年3人の事件。
現場教員:本校・谷口 大きくて重いテーマにどう迫っていいのか悩んだ。既存の学習内容は,本当は全て生き方の教育につながっている。それを敢えて取り出すのは何をどうしたらいいのか?
既存の学習からいくつか取り出してつなぎ合わせればできるかと思った。つなぎの接着剤が総合。でもそれだけだと「学ぶことの意味」が明確にならない。
そこで,育てたい子どものイメージから明確にして考えていった。とてもたいへんだった。一緒に考えていく中で子どもたちから予想を超えた素晴らしい意見が出てきた。
大学教授:感動で涙が出た。みなさんの伝える力のすごさを感じた。生きたことばで身体が震えた。多くの人たちに支えられてきた成果だと思った。この素晴らしい場に立ち会うことが出来てよかった。
一般参加者:私は昭和32年の卒業生。先日の朝日新聞で見て,今日やってきた。最近あちこちのシンポジウムにでかけている。1年に100回くらいでかけているが,今日の発表が一番さわやかだ。校歌のフレーズ(富士の高嶺の気高さを)を忘れられない。「気高く生きよう」と願ってきた。今日の皆さんの姿は気高い。最近の世の中は地位の高い人たちも,気高さという大切なことを忘れてしまったようだ。いのちが大切に扱われている社会ではないと感じる。世界に目を向けることも大切だが,私たちのこの日本も大変な状況だ。大人が胸を張ってバトンタッチできる社会とは思えないが,今日の皆さんの決意をどうか自分のことばとして,自分のものにしていって欲しい。
他校教員:難病にかかって現在休職中。自分自身,いのちについてたくさん考えた。今日,私自身がいのちについて学びなおした。死に瀕して普通のことが出来る幸せを知った。息が出来る幸せ,しゃべれることの幸せ…。自殺したくなってしまったこともあったが,いろいろな方から助けられた。今生きていられるのは周りの方の支えがあってこそ。自分を大切に出来る人は人を大切に出来る人。自分自身をまずは大切にして,今この一瞬を大事に生きていきたい,と改めて感じさせて貰った。
絵門 :児童の皆さんの発表を見られなくてとても残念。これまでの長い積み重ねが今日の姿になったのだと思う。私は昨日までは本当に起きているのもつらかったが,いまはみんなに不思議な力を貰っている。
もしおぼれかけている人を見たら,みんなどうしますか?何とか助けようとするでしょう?ところが,いま病気の現場ではそうでないことが起きている。もっとみんな原点に戻って考えませんか?と言いたい。
「ことば」の責任。ことばはひとつひとつがとても大事。このことばでいいのか,何度も吟味してコラムを書いている。ことばの鏡をもちましょう。自分の顔を写すように。「絶対死なないぞ」と念じ,役に立つ自分になりたいと願っているのに「余命」とか「宣告」とか「告知」などということばは酷い。人の心を潰していく。
成田 :私は人に何かして貰うだけの立場ではない,自分にも人に何かしてあげられることに気づいた。身体障害者かも知れないけれど,私は一人の人間。私は社会の一員だと思えたときに嬉しかった。障害者イコールかわいそうな人とは思って欲しくない。
6年生のみんなは絵門さんにいっぱいパワーを贈って欲しい。家に帰ってお父さんお母さんとたくさん話し合って欲しい。これで終わりではなく,ここをスタートにして。みんなに感動して貰ったことを忘れないで。
永堀: この研究発表は終わりではなく、スタート。真価を問われるのはこれから。2年前の研究着手時は、現場教師には「教科の枠」を超えて「いのちの学習」に組み替えることに大きな抵抗感、違和感があり、研修を続けていくだけでも大変だった。今日ここに辿り着いたことが夢のようだ。しかし、今後いかにしてこのいのちの学びを新宿区のみならず、日本中の教育の現場で進めていけるか、大人がどこまで責任をもってやっていくのかも問われている。
大学生:今日は本当に感動した。来てよかった。現在大学4年生。大人だから子どもになにかできる,ということじゃなくて,心から「ありがたい」と思ったときに「ありがとう」と気持ちを伝えることが大切だと感じた。
新宿民生委員: 感動しました。「いのち」という重たいテーマにどうなることかと思った。見事に仕上げられた。私たち戦争のあった時代には「生きる」と言うことを実社会の中で自然に教わった。これを学習の中で取り上げるのは大変なことだ。今日,ひとつの形が見えたと思う。絵門さん,成田さん,どうぞこれからも元気でご活躍ください。
新宿NPO団体職員:去年ユニバーサル駅伝で本校に関わりました。
様々な人が参加した。子どもたちのサポートを受けて絵画館の周りを走った。四谷第六小の子どもたちは本物だ。これから素晴らしい社会を築いていってくれるでしょう。ありがとう。
絵門: みんな同じように重くて,しかも一人一人違ういのち。今日という日があってよかった,と思えるように,一日一日を大切にしていって欲しい。今日は幸せでした。今日みんなに会えてよかった。ありがとう。
成田: いのちを大切にして欲しいという一言。ありがとうございました。
乙武 :今日の研究発表会はこの場に来た人たちが一緒に「いのち」を考える“授業”だったのかな。
菅野校長 :・ 絵門さんは病気が治ったら奇跡,と言われたが。奇跡はすでに起きている。今生きてここに私たちが生きていることが奇跡。
・ 親の親をさかのぼると数え切れないほどのいのちのつながりがあること。
・人間だけが他のもののいのちを奪って生きている。なぜそんなことが許されるのか。そのわけを考えなければいけない。
・ 人は一人では生きられない。これから死ぬまで一人で生きていく人もいない。必ず誰かの助けが必要。
・ ひとつのいのちには終わりがあるが,いのちは受け継がれてつながっていく。いのちは永遠だ。
・ 自分の命は自分しか生きることが出来ない。このいのちの役割を見つけ出せる力を学校でつけること。これが学力だ。
皆さんがいのちについて,学力について一緒に考えてくださることが希望だ。
新宿区・金子教育長:この場をつくってくれた本校。参加された皆さん,パネリストの皆さん,ありがとうございました。6年生の素晴らしい決意表明。素晴らしい中学生になるだろう。自分たちの夢を叶えるためにもっと学びたい,と言う姿。「いのちの役割を見つけること」の大切さが子どもたちに伝わったと思う。新宿区は「確かな学力」をテーマにしているが,狭い意味での学力ではない。学校を支援していきたい。皆様のさらなるご支援を賜りたい。



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